その178 8場16シーンの台本
最終的に出来上がった台本は、8場16シーン、
上演時間は約120分の大作になりました。
始まりは押し出しの場。
台本には次のようなト書き(セリフ以外で登場人物の動作や行動を指示する部分のこと)から
書かれています。
『─── 暗闇の中から男たちの鉱毒悲歌が聞こえる。
明るくなると、遠くに国会議事堂が聳え、
鉄柵の後ろに白服の警官隊が隠れている。
鉱毒悲歌を歌いながら農民たちが八方から現れて中央に向かって行く。
指揮官「突撃準備!!」
─── 農民たち迫る。
指揮官「突撃開始!」
─── 警官隊突進する。
田中正造「待てー!(駆け込んで来る。双方に)
待った!待った!待った!皆さん!おとどまり下さい!
田中正造が皆さんに申し上げることがあります。」』
田中正造が事態を鎮めようと演説を始めますが
農民たちの耳には届かず、警官たちと衝突しそのまま舞台奥へ。
農民と警官の声も遠くなり消え、正造一人が舞台に残り、
彼が抗議の論を語りだします。
何が起こっているのかを観客に説明するという始まり方です。
続いて、政府の巧妙な理屈と強引で卑劣なやり方により、
谷中村が追い詰められ、移住を余儀なくされるシーンが展開されます。
最後に残った住民の家屋が強制的に破壊される場面も含まれています。
強制破壊は谷中村の18軒全てに実施されましたが、
台本では
茂呂松右門、小川長三郎、渡辺長輔、水野彦市、間明田千弥の
5軒の例を「からこと」のメンバーは見事に取り上げました。
今回はその中から3つの場面を紹介します。
1つ目の場面
『長三郎「わしの家はそこらの家とは違う。
大工の手間賃なんぞ朝から晩まで働いて僅か二十銭か二十五銭だ。
それを貯めて上等な材料を買い入れ、
どんな水にも嵐にも潰れないよう、
手間かけて頑丈に作った家だ。
県庁の人足に叩き壊されてたまるもんか。
五人でも十人でも叩き切ってやる。
ノミとカンナは伊達じゃねえぞ!」』
2つ目の場面
『彦市の娘リウ「今日だって通知はオラの家ではもろうてねえだ。
オラは父からなんも聞いてねぇ!
父が帰るまでは手をつけさせるわけにはゆがねぇ!!」と、
両手を広げて立ちふさがる。』
3つ目の場面
『間明田千弥「間明田千弥はただいまから人間を放り出すという法律に
かかってみようと思うでがす。
だから、動きましねえだ!
さ、その法律をかけてみたらええ!!」
──── 座敷の真ん中にドッカと座り込む。』
セリフは「からこと」のメンバー自ら考えたものです。
前後には官憲とのやり取りが続き、
稽古の時から真に迫る迫力を感じるシーンでした。
このシーンは湊川の生徒たちにも通じると、
演出の竹内さんも認めました。
しかし、困ったことに
官憲の指揮官役が決まらないのです。
権力者の声で号令を掛けられる適役が
「からこと」のメンバーから見つからなかったのです。
全員、大きな声は出せるのですがやさしい声とトーンのため
指揮官の非情で冷たく場を緊張させる固い声が出せる人がいませんでした。
これを竹内さんに相談した翌日。
彼は稽古に来るなり、演出プランを提案します。
「指揮官の役は惣川君一人にやってもらう。
警官隊は姿だけ見せて、セリフは無し。
全員残留民になって、やられるシーンは、受けのマイムにする。」
受けのマイムとは、打ちかかってくる警官の姿が無くても、
やられる受け身の演技だけで表現するという意味です。
実際に稽古をすると、迫力が増し厚みのあるシーンとなったのです。
唯一の課題は指揮官役に指名をされた私ですが
そんな不安をもちつつも、一行は湊川へ乗り込んだのでした。