鈴木泰司(やすし)さんは1987年に
エゾリスの写真集を平凡社から出版しました。
副題には「森の妖精」とつけられたその写真集の表紙は、
エゾリスと鈴木さんの関係が1枚で伝わる
非常に素敵な表紙です。
表紙をめくった最初の見開きには
当時4才の鈴木さんの長男・草介(そうすけ)くんが
エゾリスと間近で見つめ合っている写真が載っています。
四季折々の彼らを追ったその写真たちには
森への深い思いとエゾリスへの敬愛の気持ちが込められています。
野生の王国でエゾリスをテーマにすることが決まり、
1年間の追加撮影が必要となりました。
彼らの生態に関する映像は谷口カメラマンが
何年もかけて撮影してくれた映像素材があります。
しかし、今回伝えたいのは柏の森とエゾリスの関係について。
鈴木さんは
「大事な柏の森はエゾリスが守っていることを、
番組だったらもっとはっきり伝えることが出来るかも知れません」
と1年間の撮影計画を一緒に立ててくれました。
計画を立てていた時は11月。
年明けから早速撮影を始めるにあたり、
4つのルールと撮影内容を決めました。
エゾリスに認識してもらうため、1月〜2月は毎日森へ通うこと。 慣れると姿を見せるようになるので、 晴れの日に雪の中に潜ってどんぐりを取り出す様子を撮影する。
6月〜7月は、実生の撮影。 弱った木々が倒れ、空が広がった場所周辺の実生を確認し、 年代幅の異なる年齢の実生木を撮影する。
9月〜10月は、エゾリスがどんぐりの実を「植える様子」を撮影する。 埋めているのではなく「植えている」のが伝わるように撮影。
海岸の砂浜から柏の林がなめらかに繋がっている様子を季節ごとに撮影する。
このルールと計画のもと行われた最初の撮影は
予定通り翌年1月からスタートしました。
初日は、鈴木さんと一緒に雪の上の足跡を探して、
エゾリスのテリトリーに入ります。
2、3時間ポイントに立ちましたがやはり姿は見られませんでしたが
鈴木さんは
「向こうは見てるからね。明日も同じ時間に行って下さい。
但し、服装を変えたらだめですよ。
同じ服装で3日も通ったら、4日目には姿を見せてくれますよ。」
とアドバイスを残し、帰っていきました。
ポイントにはカメラの三脚だけを残し私たちも解散しました。
そして鈴木さんの言葉を信じ、通い続けていよいよ4日目。
冬の北海道の日の出は遅いので、
午前8時にスタッフ3人でポイントへ到着し、
2、3時間たたずんでいると
自然と目の前にエゾリスが現れたのです。
こちらを意識はしているようですが
危害を加えてくるものではないと認識した様子で
雪の中へ潜り、どんぐりをくわえて出てくると
そばにある木にひょいと乗って食べ始めました。
この時に撮影を担当していた草間君は
永い間、谷口カメラマンの助手を勤めおり
助手の小原君は後にアフリカへ行ってもらったスタッフです。
私を含めた3人が野生のエゾリスに受け入れられた最初の瞬間でした。
それから1週間、毎日、同じ時間に出かけて、同じ時間だけ撮影しました。
どこへ潜ってもどんぐりをくわえて出てきて食べる姿を何カットも撮りました。
ある日。
前日の夜に雪がかなり降った為、
使っていた道が進めなくなり、深い雪を漕いで
なんとか向かいましたが
いつもの時間から30分以上遅れてしまいました。
今日の撮影はダメかと諦めかけて到着すると
なんとエゾリスが三脚の前に座って待っていたのです!
野生の生き物に認められるというのが
どういうことなのかについては別の機会にお話ししますが
あの時の嬉しさとありがたさは今でも忘れられません。
エゾリスの写真集 表紙
最初の見開きページ
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