今回からは
野生の王国「北海道の森の植林王・元気印エゾリスの四季」
のお話をしていきます。
この番組は4本の北海道シリーズの中で一番苦心した作品です。
見た目にも可愛いエゾリスの生態は
谷口カメラマンが美しくかつ珍しい映像で
たくさん記録していました。
それを紹介するだけで番組は成り立ちます。
しかし、番組を通して伝えたいと思った芯の部分は
さらに深いところにありました。
北海道という広大な北の大地に
肥沃な土壌を創り出すには
エゾリスが欠かせない生き物であること、
そこには柏の木との関係も
必要不可欠であること、
これをどうにか伝えたいと思ったのです。
今回のレポーターをお願いした
写真家の鈴木泰司(やすし)さんはこの関係性を
「神様に与えられた役割のように思えます」
と語っています。
鈴木さんは小清水町で代々農業を営んでおり、
竹田津さんと共に野生生物の生態を
記録する写真家の仲間です。
今回は、番組の内容ではなく
その撮影前、鈴木さんとの取材前の
お話をしたいと思います。
エゾリスは北海道の森に広く棲息しています。
彼らが秋に埋めたどんぐりの実は
次の春に芽を出し、やがて大きな木へと成長します。
エゾリスは森を作る動物なのです。
特に今回取材をした東の海岸に広がる柏の林は
ここはエゾリスによって作られたといっても
過言ではありません。
沿岸部には柏の木以外はほとんど生えていません。
柏は海からの潮風に負けない植物なのです。
また、柏の葉は塩分を吸収し、
内陸の塩害=塩の害を無くしてくれます。
海側に立っている木は
低くて細いのですが砂に触れるぐらい枝を垂らしていて
何と年輪は100年を越えています。
内陸に行くに従って木は太くなり
100mも入ると両腕を広げた形の大木が
ところどころに立っています。
その周りには雑草が生えていません。
柏が出すしずくによって
他の植物が育たないようにしているのです。
しかしそれ以外の木は直径15cm〜20cmほどの細さで
木の上の方では、大きな柏の葉を広げて太陽の光を
より広く奪おうと競い合っています。
この「競っている」というのは事実のようで
競う力が弱くなった木は
虫たちが察知して一斉に取りつきます。
また、それを狙ってキツツキが
皮を剥ぎ穴を空けたりするのです。
空けられた穴は鳥たちの巣として使われますが
何年かするとある日ばったり倒れます。
長年観察してきた鈴木さんが
「何故か、それは必ず風もない穏やかな日なんですよ」と
教えてくれました。
鈴木さんは、倒れた木のもとへ向かい
ぽっかりと空が見えるようになったそこを指さしながら
「この空をここに生えている実生のどれが取ると思いますか?」
と私へ質問しました。
すぐに周りを見回すと、膝下ぐらいまで生えているものから
見上げるほどの高さがありながらも
まだまだ育ちそうなものまで、沢山の実生がありました。
私は、空いた場所に一番近い5mほどある木を指差して
「あの木ですか?」と答えると
「違うんですよ。この辺のこれとかあれとか、
だいたい4~5年のものが一気に伸びて取りますね」
と、これもよほど長く観察しなければ
分からないことを教えてくれました。
「こうやって、柏の森は続いて来たのです。
でも、この種・実は全部エゾリスが植えたんですよ!
自分が作るじゃがいもも麦もビートも柏の森のおかげ!
エゾリス様のおかげ!だから、
せめて、記録だけでも残しておかないとと思ってね」
何百年も、もしかしたら千年以上も
塩害を被らずに畑が出来ていることへの感謝をそう表現して
鈴木さんは高性能のカメラの三脚を立てて言うのでした。
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