top of page

水物語その77 サケのふ化放流事業③

サケが自然産卵をしに戻ってくる唯一の川は

それまで取材してきた川に比べると

とてもとても小さな川です。

幅は10メートルほど。

上流から流れてきた来た石が積み上がって

川の底がすぐ見えてしまうような本当に小さな川。

知床にある唯一のその川は、上流に進むにつれ

川幅が狭くなったり広がったりを繰り返し、

1キロほど登ると深さが出てきます。

ここが戻ってきたサケの産卵場となります。

サケは入り口の浅瀬を、

体を横にしながらバタバタと泳いで進み

川奥のそこへと辿り着くのです。


やがて辿り着いたメスの胴体には婚姻色が現れ、

そばではオス達の争奪戦が始まります。

オスが戦っている間にメスは産卵場所を探します。

気に入った場所を見つけると

尾びれを使って川底の石を跳ね上げ、穴を掘ります。

この穴の深さはなんと30cm以上あり、

広さは直径1メートルもあります。


穴が出来上がった頃、

メスの争奪戦に勝ったオスが

準備のできたメスの側に擦り寄って

ブルブルっと体を震わせて産卵を促します。

メスが口を大きく開けながら尾を下げ、産卵を始めると

オスも同時に大きく口を開けて精子を発射します。

余った精子が白い煙のように水の中を流れていきます。

メスは産んだ卵が天敵に食べられないように

卵の上に小石を跳ね乗せて隠します。

そんな行動を3回繰り返すと産卵は終わります。

1回に産む卵の数は約1000個以上、

3回で2500〜3000個をも産むのです。


産卵が終わった後、オスはどこかへ泳いで行ってしまいますが

メスはその場所に留まり、卵を守ります。

天敵や他のサケからの攻撃に耐え、時には戦います。

そしてそれは力が尽きて泳げなくなるまで続くのです。

力が尽きて流されたメスは、

自然界の他の生き物のエサとなったり、

時間をかけ分解されると生まれてくる稚魚のエサともなるのです。


そうして守られて生まれてくる稚魚たち。

石の間に産みつけられた卵の中に2つの目玉が

できてくるのが約1か月。

さらに1か月経つと稚魚は頭のてっぺんから

酵素を出し、丈夫な卵の殻を破って生まれてきます。

生まれたばかりの稚魚はお腹に卵の黄味を抱いて

その栄養で2〜3ヶ月育ちます。


腹に抱いた卵黄がなくなると光の外に出てくるようになり

自分たちでエサを捕えるようになります。

主なエサとなるのは川虫です。



自分の体より大きい川虫に噛みつき、群がって食べるのです。

そして、中には力が弱く生き抜けない稚魚もいるですが

そういう仲間もエサとなるのです。


もちろん、稚魚たちもエサとして狙われます。

生まれてきた稚魚の4分の3は食べられてしまうそうです。

敵は様々なところにいて、外からはヤマセミ、

水中ではハナカジカ、二ホンザリガニ、オショロコマ。

彼らが食べている稚魚を捕らえる様子を

谷口カメラマンは画面一杯の画像で撮影しています。

こうして生き抜いた稚魚たちは、徐々に海へと泳ぎ流れていくのです。

もちろん、海に出てからもカモメなど敵は多く

自然の中で生まれ、育ち、生き抜き、戻ってくることの

難しさを改めて感じます。

一方、人工ふ化場で誕生する稚魚は

育成水槽で餌を与えて育てられ、

ある程度大きくなってから全匹海に放流されています。

水産資源保護法が出来てから、

毎年放流される稚魚の数は約13億尾。

その中の約5〜6%が戻ってきているそうです。


一見、「自然」であることがサケや生き物にとって一番良いと

思ってしまいます。

しかし、もしこの法律が早々と制定されず、

あの高度成長時代の生活排水と

農薬や化学肥料に汚染された川の中を

サケが登っていたら、彼らは無事に生き続けていられたのでしょうか。



野生の王国「秘境知床 日本でここだけ!サケの自然産卵」から


産卵のため、穴を掘るメスと後ろから励ますようにサポートするオス


メスは尾ヒレを使い、穴のサイズを測っている


受精中の様子 / 自然産卵された卵


卵を守り、力尽きたメス


生まれてくる稚魚と卵黄


稚魚の天敵達


0件のコメント

最新記事

すべて表示

水物語その158「土と水の自然学」の取材⑫~処理編~

次は、食品加工工場団地の排水処理です。 九州熊本県人吉市にある食品工業団地の看板にタイトルが出ます。 「熊本県人吉市 人吉総合食品団地協同組合」 続いて団地の全景に経過を説明する字幕がでます。 「この団地は1982年に設立され 6社の工場の内5社の廃液を 共同処理しているが、悪臭と 血汁等高濃度廃液及び 汚泥の処分に苦しんできた。 ’86年から内水護博士の指導で 施設を改善、現在では総てが 解決し

水物語その157「土と水の自然学」の取材⑪~処理編~

放流水でイワナが元気に生きているのを確かめた後は 脱水ケーキの堆肥化を見ます。 脱水ケーキとは沈降槽(ちんこうそう)で沈んだ汚泥のことです。 <汚泥脱水装置> 新しい汚泥には既に出来上がっている 堆肥を混ぜて醗酵させています。 その作業を見ながら内水先生は臭いを確認します。 「もう、この段階で臭いはほとんどありませんね」 映像には汚泥と堆肥を混ぜる装置が映ります。 <新しい汚泥の臭いを嗅ぐ内水先生

水物語その156「土と水の自然学」の取材⑩~処理編~

処理編の最初の現場は長野県安曇野市豊科町です。 町を見下ろした全景の映像にタイトルが出ます。 「名水百選の町・豊科では、 家庭に設けた浄化槽の汚泥を 集中処理しているが、その悪臭に悩まされていた。 1984年の秋から内水博士の指導で 施設の改善を行い 現在では悪臭が除去され、 放流水質も向上している。」 そして、 バキュームカーが生活雑排水処理場に入ってくるシーンになり 内水さんがこの処理場を最初

bottom of page