翌朝、一番大きなカバの池までは緩やかにしか走れないので
2時間見てほしいということで
午前3時に出発しました。
赤道直下の夜は、月が出ていないと本当に真っ暗です。
手をかざしても自分の手が見えません。
ライトを点けると危険だということで、そんな闇の中をドライバーは無燈でゆるゆると進みます。
ドライバーには道が見えるとのこと。
突然、ドライバーが停車ランプを一瞬点けました。
何と目の前に大きなカバのお尻が見えました。
車はエンジンを切ってしばらく停車です。
しばらく待って、もう大丈夫だと言って発車しました。
そんなことが2度あって、ようやく空が白くなると草原の中に
カバたちの大きな塊があちこちに見えました。
目的の池に着いた時はすっかり明るくなって朝靄が立ち込めていました。
レンジャーはほとんどのカバがもう帰っていると言いました。
確かに100頭以上のカバたちが池の中に群れをつくっていましたが、
驚いたのは、昼間あれほど糞だらけだった池の水が底の見えるまで澄んでいたことです。
一体これはどういうことだろうか?と驚いているところへ、
何と傷だらけになったカバが帰って来ました。
腹と尻の皮が破れて白い脂身と骨が見えています。
恐らくライオンの狩りに合ったのでし ょう。
後ろにはまだ諦めないハイエナの群れが付いてきています。
傷だらけのカバは真っ直ぐ池に入りハーレムの中に納まりました。
この後どうなるのかとレンジャーに質問しましたら
「あれはも う大丈夫だ。夕方までにあの傷は治っている」
と言うのです。
日中の暑さ、糞と尿の池に浸かり続けることを考えると
俄かには信じ難い返事でしたが、
その後10日間の滞在中に同じカバを発見し、
見事に傷が塞がっているのを確認することができました。
草原に草食動物が過密に居過ぎることへの疑問、
糞だらけのカバの池が一晩で透明に澄むことへの疑問、
カバの傷が半日で治ることへの疑問が
一挙に解消する機会に遭遇しました。
ルワンダとの国境に近いゴマという町で
ピグミーの集落へ飛ぶチャーター機を待っている日に、
地元の古い豪族から招待を受けました。
お饅頭のような丘が左右に幾つも見える峰道を登った頂上に 石造りで平屋の大きな屋敷がありました。
広い応接間には幅の広い分厚い一枚板の長いテーブルがあり、
その中央に果物や野菜、パンや骨付き肉がずらりと並んでいました。
後ろのガラスケースの中には、シャレコーベが幾つも陳列されており、
人類発祥の頃のものだとの説明を受けました。
50歳前後の主は、非常に穏やかな声で語り、
文明社会とは切離れた叡智に満ちている雰囲気を漂わせていました。
自分の工場で作ったという美味しいワインで乾杯して、
並べられた料理をいただきましたが
どれも驚くほどの美味しさでした。
全部自分の領地で採れたものだと言った後、突然
「ディレクターそうかわ、あなたの前のレタスは私の農場では何日で採れると思いますか?」
と主が尋ねました。
「種から?」
「そうです。種からです。」
“きっと、速く採れると自慢したいんだろうな、日本の半分かな・・” と考えて「1か月ですか」と答えました。
主は、立てたひとさし指を左右に振って、
「一週間」
と笑みを浮かべ、しかし真顔で言いました。
「一週間!?・・そんな・・」
しかし、嘘を言うはずはない。
私の頭は超高速でフル回転を始めました。
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