林先生から撮影許可が出たものの
沖縄の小学校で、という指定に
私たちスタッフは頭を抱えていました。
この授業を撮影・製作するため
私たちは「教育と映像を考える会」を
立ち上げていました。
メンバーはグループ現代社長小泉修吉、発案者の四宮鉄男、三木実、
そして惣川修の四人です。
先生のご自宅に伺った時、授業に参席した時、全て同じメンバーです。
撮影プランについては許可が出る前から話し合っていました。
『撮影は同時録音できるカメラが2台、
スナップを撮るためにもう1台で合計3台は必要だ。
それと録音セットが要る、』
など撮影方法やそのための機材について
話せば話すほど、通常の記録映画撮影よりも
費用がかさむことがわかってきます。
注釈として書いておきますが
当時はまだフィルムやカセットテープの時代ですので
機材は全て今では考えらえないような値段です。
「できるかな?」と心配していたところへ、
林先生から沖縄での撮影という提案です。
聞いた瞬間”企画は潰れた!”と
3人は同じ思いで黙り込んでしまいました。
すると、なんと小泉社長が
「沖縄での授業の記録、撮りましょう!」と宣言したのです。
その声に林先生は本当にうれしそうな表情をされました。
しかし、林先生の表情とは裏腹に
私は不安と疑問で正直もやもやとしていました。
”沖縄ロケが出来るどんな勝算があるのだろうか?”
”なぜ、沖縄なのだろうか?”
先生と分かれて帰る地下鉄の中で
そんなことを考えていましたが
隣に立つ小泉社長に尋ねることはできませんでした。
電車の中で私は
生徒の感想文を思い出していました。
”林先生はもっと落語や講談を聞いた方がいいです”
と書いた東京中央区の小学5年生がいたこと。
”先生の声は優しいので僕の心に届くのである”
と書いたのが特殊学級の生徒だったこと。
そして沖縄を指定した時に
「沖縄には沖縄の人たちが守っている小学校教育があります」
と言われた林先生のこと。
これは現場を知ってるからこその言葉でした。
そのまま新宿御苑前にある
グループ現代の事務所戻り打ち合わせをしました。
すると小泉社長から
「製作費は去年作った鉄鋼連盟の”鉄と社会”と
プラ協の”ごみと社会”のプリント売り上げがある」と
明かされました。
”鉄と社会”は私がシナリオ、小泉社長が演出をした作品で
”ごみと社会”は水物語123で紹介した作品です。
プリントが相当数売れたことは知っていましたが、
それほどまでに売り上げがあったとは知りませんでした。
製作費の不安も消え
そのまま撮影・製作プランの打ち合わせを進めます。
まずは小泉社長が
プロデューサーとしてプランを語ります。
「内容が精神的なものだから、
フィルムはカラーではなく白黒で撮影するのが良いと思う。
カメラは先生を撮る1台と生徒を撮る3台の同時録音のカメラで撮り、
そのままプリントして、4台の同時映写機で4つの画面で映写する。
作品としてはこの4本マルチ映像をオリジナル作品とし、
1本に編集するのは四宮君にやってもらう。」
林先生の授業を記録するのに、
これ以上は無いと思える見事な提案でした。
私たち3人はすぐに賛同して、
まずは撮影準備に向けて動き出しました。
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