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水物語その143 理性をもつこと

林先生は「人類学者ケーラーがどんな実験をしたかといいますと」

と言って、黒板に図を描きはじめます。


先生が例にあげる実験は

ドイツの心理学者が行なった「まわりみち」

というもの。

動物が問題解決のためどのような行動を取るのか、

知能テストを用いた実験です。

実験はシンプルで、金網で袋小路を作り

その中に動物を入れます。

網の向こうにその生き物が欲しがる物を置き

その生きものがどのような行動をするかを

調べたものです。

仕切っているのは金網なので

動物から対象物を見ることはできるのですが

金網をつきぬけて出ることはできない。

しかし、まわりみちをすれば

簡単に欲しいものを手にいれることができるのです。


黒板には袋小路の図が描かれています。


最初に実験対象となったのは

ケーラー自身の子ども、1歳3ヶ月の娘です。

網の向こうには大事にしているお人形を置きます。

袋小路に入ると、娘はにっこりして後すざりをはじめ

見事に網をまわり道をします。


ここで林先生はぐるっと線を描き「まわり道」と添え書きをします。

「お人形を手に入れました。」と生徒たちを見ます。

次に、愛犬を入れ、網の向こうはエサを置いた。

愛犬は、それを見て迷わずまわり道をして

エサを食べることができました。


3回目の実験にはニワトリを入れました。

1歳3ヶ月の娘と愛犬と同じように網の向こうにエサを置きます。

するとニワトリは網に向かって突進し、

そのままぶつかって右と左にバタバタウロウロしました。


ケーラーは、もう一度、愛犬を同じ場所に座らせます。

今度はエサの位置を変え、

1回目よりも網のすぐ近くに置いてみました。

すると犬がニワトリと同じように網にぶつかってウロウロする結果となったのです。


この実験結果に「どうしてだと思う?」と

前の生徒を指名し、答えを促します。

答えに窮した生徒が小声で呟くと

「なに、みんなに聞こえるように言って」と

より大きな声で答えさせます。

「どう?みんなそれでいい?」と

答えが結果と一致しているか全員で吟味します。

その後も何名か指名して答えさせますが

なんとなく全員納得いかない。

すると遂に「肉の臭いが強かったから」と意見が出ます。

林先生は「そうだね」と全員に確かめ

実験を糸口とした理性の話を始めます。



「まわり道が出来た時、動物たちは目で見ていた。

しかし、肉の臭いを強く嗅いだら、

前にできたまわり道が出来なくなった。

人間にはこういうことないかしら?」

生徒たちへ問います。


「まさか肉の臭いでなることはなくても

 別のものが強く刺激したら判断力がなくなるでしょ。」

「人間は理性をもつ生き物だと言われます」


黒板にある「まわり道」の文字の

すぐ横に「理性をもつ」と書き加えます。


「理性をもつ」ということは、

辞書などで調べてもなかなか分からない。

しかし、その本当の意味は

「肉の臭いがいくら強く刺激してきても

自分で正しい道と思ったまわり道が出来ること

人間は成長しただけで人間になるのではなくて、

本当の人間になるための勉強をすることによって人間になる。

もし、本当の人間になるための勉強をやらないと

人間の化け物なってしまうということを

考えてみたわけです。」


「それじゃ、これで先生の授業は終わります。」

にっこりと微笑む林先生の声に

ハッとしたように一瞬間を置いたあと、

「ありがとうございました!」と

生徒たちの学びに対する万感の声が教室に響きました。

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